Corporate Financial Policy: NetscapeのIPO

Yoda2006-02-08


Corporate Financial Policyの授業で、NetscapeIPOについて取り上げられた。


95年にNetscapeが上場しようとしていたとき、同社はまだ利益を出したことがなかった。しかも、インターネット・ブラウザの技術、価値、今後の可能性について本当に理解・予測できる人は殆ど誰もいなかった。その中で、NetscapeMosaicを除いて殆どファーストムーバーと言ってよく、技術的にもビジネス的にも前例がないため、競合他社と比べることもできない。ただ、インターネット市場の拡大について、その可能性に対する大きな期待はあった。


そんな中、Netscapeは当初$14で上場しようと準備を進める。しかし、Netscapeジム・クラーク、ジム・バークスデールがUnderwriter(上場のためのお世話をする引受人)のモルガン・スタンレーと一緒に投資家行脚を行ったところ、みんなの購入意欲がものすごい。「これは$28でもいけまっせ」とモルガン・スタンレーは勧めてくる。さてどうすべきか?


利益がなく、比較対照できる会社もなく、市場自体の先行きもものすごく不確かで予想不能、そんな会社をいかにValuationするか?ということ、及びIPOにおけるManager、既存の株主、新たな株主、Underwriterなどの利益・不利益を整理して、上場に適正な金額をはじき出す、なかなかエキサイティングなケースだった。


チーム・ディスカッションでは、だいたい「$28って正直高い気がするし、(5百万株発行するから)1.4億ドルなんて調達しなくてもいいかもしれないが、マーケットが$28って言ってるし、リスクを考慮にいれても$28でいいんじゃないの」という感じに収束されていった。インターネットの市場規模と、Netscapeのシェアをどの程度に見積もるか、及びβ(Cost of Equityをはじき出す)で、Valuationなどいくらでもブレる。つまりやろうと思えばいくらでもJustifyできるなかで、$14で発行する意味があまりないんじゃないかと。


授業で他のチームの意見を聞いてみると、大体同じような感じであった。$28が高すぎる、または適正レベルだと考えた人が殆どで、「$28でさえ低すぎる」と考えたのは一人だけ。みんな、「NetscapeってMicrosoftにやられて結局シェアなんてほとんどないよな」というイメージが強かったのだろうか。あまり高値にValuationする人はいなかった。


さてふたを開けてみると、Netscapeは$28、5百万株で上場したが、上場初日の終値は$54。その後も順調に上がり続け、一時は$170を越えたらしい。その後$70くらいになったらしいが、いずれにせよ、マーケットは$28をはるかに越える評価をしたわけで、既存株主は機会損失をしたわけだ。当時のインターネットへの熱の高まりが、理屈を越えたValuationをはじき出していたのだろうか。


では、もっと高値で上場すべきだったのか。と教授に聞いてみると、「結果的にはそうだが、マーケットプライスを事前に推し量るのはとても難しい。今回、既存の33百万株に対し、発行したのは5百万株だから、それほど多くない。まずはこれでマーケットプライスを知り、その後2度目の発行をする、という手もある」とのことだった。


いずれにせよ、Valuationの難しさ、InvestorとManagerのそれぞれの立場・利害について見渡せ、面白い授業だった。


ベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンズがケースに登場していたので、家に帰って「アメリカを創ったベンチャーキャピタリスト」のジョン・ドウアの部分を読んでみると、Netscapeの創業から上場、AOLによる買収の経緯がインサイダーの視点からまとめられていた。Netscape創業時、マーク・アンドリーセンはわずか22歳。MBA留学などしているのが、いかにも遠回りのように思えて、焦る。