Maestro: Bob Woodward

Yoda2006-05-20


FRB議長アラン・グリーンスパンの議長就任から2000年くらいまでの活動内容を、FRB内部の視点も含め詳しく記述した本。Financial Markets&Institutionsの授業、あるいはMacroeconomicsの授業でよく取り上げられたFederal Reserveの金融政策が、実際にどんな感じで行われているのか、どのような意思決定プロセスになっているのか、実際の景気や不確定要素に対しいかにリアクションしているのか、様子がつかめたという点で非常に面白かった。いろいろ考えているようで結構適当ですね、というのが率直な感想。というか、反応が非常に悪くブレーキやハンドルを操作してから動くまで1分くらいタイムラグがあるような車で、視界の悪い道を運転している感じ。


また、グリーンスパンの独特なリーダーシップという点でも興味深かった。あるFRB幹部が「今回、多分、無記名投票を行ったら、グリーンスパンに反対する票の方が多かっただろう。しかし誰も表立ってグリーンスパンに反対しようとはしないし、できない」みたいなニュアンスのことを述べている。グリーンスパンは「俺が俺が」というアグレッシブなリーダーシップではないし、「Good To Great」で紹介されていたようなレベル5リーダーシップ:謙虚で実直、人柄で人を動かすタイプでもない。根回しと心理的駆け引き、優しくしたり冷たくしたりの絶妙なさじ加減で、一人ひとりを絡めとる。それは、大規模な組織には通用しないスタイルかもしれない。しかしFRBという組織の中で、それはパーフェクトに作用した。ただし、グリーンスパンが結果的に正解を出していったからこそ評価できるリーダーシップであり、反対意見・異なる意見を基本的に許容しないそのスタイルは軋轢を生み、多くの幹部が去っていったし、グリーンスパンが去った後の組織がどうなるかのリスクは大きい。新議長のバーナンキがどんな風にリーダーシップを発揮するのか、注目。


それから、グリーンスパンが典型的エコノミスト的でなかった、というのも面白い着眼だった。多くのエコノミストがモデルやセオリーに傾倒し、現実をそのモデル/セオリーに当てはめようと考える。しかしグリーンスパンはもっとプラクティカルで、実際のデータを集め、自分の頭で考え、答えを出そうとする。予測不可能な現実の経済のなかで、不確かながらも舵取りをしていくには、そっちのほうが相応しいのだろう。それはどんなビジネス、どんなリーダーにも当てはまる姿勢ではないか。