Corporate Governance: 企業統治が企業価値に与えるインパクト

Corporate Governanceの授業で、ロシアの石油会社、OAO YUKOSのケースを扱った。ソ連崩壊後、民営化を急ぐロシアは、政府が財政難に苦しんでおり、なおかつ政治家は腐敗しきっていた。国営の企業をありえない安値で(賄賂と引き換えに)売り飛ばす。安く会社を買い取った企業家たちは莫大な富を得る。そういう状況。


YUKOSは、そういう情勢の中、大株主でもある経営陣が少数株主をないがしろにした勝手な行動をとりはじめる。子会社の株をマン島やバージン諸島などのオフショアの会社に対し大量に発行し、少数株主はシェアが激減。少数株主は意思決定のプロセスから締め出され、裁判所に訴え出るも埒があかない。さらにYUKOSは、子会社が不当な安値で石油をYUKOS関連会社に売り、利益を得る。


と、まあ、やりたい放題なわけであるが、これらの騒ぎの後、YUKOSの株価は地に落ちる。1999年には15セントまでさがった。YUKOSは西洋的グローバルカンパニーを標榜し、一連の改革を始める。アカウンティングの標準規格GAAPにのっとった会計報告、ヨーロッパ等から幹部を招いてオペレーション改善、コーポレートガバナンス委員会や監査委員会を設けるなど、当時のロシアとしては最先端を行く改革を行う。


しかし、やはり過去の前科を簡単に忘れられるはずもなく、しかも当事者たちがまだ経営陣・大株主としてのさばっているのでは、すぐに信用できるはずもない。石油の潜在貯油量ではロシア2位、オペレーションの効率もベストなのに、株価・P/Eは低迷し続ける。大株主のシェアを下げることがKeyなのだが、現在の低い株価では大株主は手放したがらない、しかし彼らが手放さないと株価は上がらないというジレンマ。企業統治のしくみ以外に打ち手がない、つまり、企業統治の問題だけが、株価を下げていたことになる。


結局、上記のような企業統治改革を実行し、時間をかけ、2003年には株価は16ドルまで上昇。つまり、企業統治の問題は、15セントと16ドル、企業価値を100倍も上下させるほどのインパクトがあったというわけだ。


ただ、その後、(恐らくは謀られたのだが)YUKOS社長が脱税で逮捕され、YUKOSは再び国営に戻ってしまう。日本だと上場企業というだけで信用できるようなイメージがあるが、株を公開している会社だからこそ、企業統治を軸にしたマーケット・投資家との信頼・信用が大事であり、それ次第ではいくらでも評価など上下するのだということがよくわかった。